プーチンがブラフ的に発言していた、原子力巡航ミサイルが、先日実験中に事故を起こし、関係者が死亡する事故の報道があった。原子力推進ってなんだろうと、素朴な疑問を抱いたので、調べた結果を備忘的に記しておく。
事故のニュース
ロシア軍施設で5人爆死 原子力推進式ミサイル実験で事故か(BBC)
ロシア北部アルハンゲリスク州ニョノクサ近くにある、海軍の海上実験場で8日、爆発事故が発生し、実験作業にあたっていた原子力企業職員5人が死亡した。5人の葬儀は12日、モスクワの東373キロに位置する同国の核兵器開発の中枢である「閉鎖都市」サロフで執り行われた。
北極海のバレンツ海上にある実験場から東40キロの街、セベロドビンスクでは、事故後40分間、放射線レベルが急上昇した。
ロシアは以前、原子力推進式巡航ミサイル「ブレヴェスニク」(ロシア語でウミツバメの意味)の実験を行なっているが、当局は、今回の悲惨な事故を起こした実験で使用していたシステムについては言及を避けた。
ロシアや西側諸国の複数の専門家は、今回実験されていたのは、巡航ミサイル「9M730ブレヴェスニク」(NATOコード「SSC-X-9スカイフォール」)とみられると指摘している。
私は原子力推進のミサイルなんて知らなかったもので、「なんじゃそりゃ?」でした。
原子力電池で発電してモーター回す?くらいの発想でした。
推進方式は多分、原子力ジェットエンジン
公式情報で推進方式への具体的な言及はなく、想像するだけ。しかし、ミリオタは世界にいるらしく、洞察がすばらしい。
Ракета 9М730 / Крылатая ракета с ЯЭУ
原子力発電と9M730ミサイル/巡航ミサイル(google機械翻訳)
以下、google機械翻訳を引用。
推進:マーチングジェットエンジン-核ジェットエンジン(YAVRD)原子力発電所によって加熱された空気などの作動媒体作用-おそらくエンジンの新しいタイプを使用。
http://militaryrussia.ru/blog/topic-895.html
核ジェットエンジンとあります。米国では1950年代に原子力のジェットエンジン、ラムジェットエンジンの実験をしていますが、前者に近いものと思われます。
ただ、このブログにもある通り、固体燃料ブースターを併用しているようで、立ち上がりには補助的な推進が必要な模様。
アメリカの過去の計画、XNJ140E:燃料不要
1961年に米GE社が提案した、XNJ140Eという原子力ターボジェットエンジンのドキュメントが閲覧できた。ドキュメントによると、1950年代の実験の延長上にある模様。
Aerospace Projects Review Blog
COMPREHENSIVE TECHNICAL REPORT
-DIRECT AIR CYCLE
-AIRCRAFT NUCLEAR PROPULSION PROGRAM
XNJ140E-Direct-Air-Cycle-GE-1962.pdf
とまあ、絵を見てわかるとおり、ターボジェットエンジンの燃焼室の付近に熱交換器が配置されている。原子炉から発生する熱を、ここで放出し、空気を熱して膨張させ、後段のタービンを回すというもののようだ。
自分自身は、熱機関と言えば「燃焼」することが必須だとの固定観念があり、この構造を想像できなかった。結局大事なのは「気体の膨張」であり、原子炉の熱で空気を膨張させることをうまく運動機関に伝えればいいわけだ。目からうろこ。
保管状態では原子炉に制御棒を突っ込むなどで冷温状態にしておかないとならないだろうから、そこから十分な熱を発生させる状態にするまでには時間が必要であろう。また、エンジンの初回回転のためのセルモーターのような補助動力も必要かもしれない。
どっちみち、巡航航行できるようになるまでには、他にも手間と時間がかかると思われる。
先述のブログによると、固体燃料ブースターを併用していたようだ。ミサイル発射と同時に固体燃料で発射・加速し、その間に原子炉からの発熱を立ち上げ、前方から入る空気によりジェットエンジンの回転を起動するのかもしれない。
熱交換器と原子炉がどのようにつながっているかはわからないが、一時冷却の閉回路でつながっていれば、飛行中に核物質をまき散らすことはないと思われる。原子炉とエンジンを直線状に配置しなければならないと思われるし、環境への影響、取り扱いを考えると、当然、一時冷却は閉回路にすると思われる。
結論としては、原子力ジェットエンジンは、巡航時に核燃料以外の燃料を必要としないものとすることは原理的に可能、ということだ。
ロシアが開発中の原子力巡航ミサイルも、地球一周をできるほどの航続距離を持てる可能性は十分にあるだろう。開発が成功すれば、だが。
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